マイノリティーの叛乱Vol.1 地学

別サークルで発表した文章です。意外と受けが良かったらしい。書いた俺からしてみたら一刻も早く消したい文章なのですが。

目次

まえがき

どうも、はじめまして。やきとりです。

私は絵も音楽も作る事が出来ません。創作物といったものとははるかに縁遠い人間です。小学校の頃、少し絵の教室に通っていた事があったのですが、そこでの思い出といえば駅の線路に画板を落として駅員さんに怒られたことくらいですから。

さて、今回の私のコーナー「マイノリティーの叛乱」では、「地学」にスポットを当てていきたいと思います。おっと、その前にコーナーの解説をしますね。この「マイノリティーの叛乱」では、普段は見向きもされないような些細な事物にスポットを当て、深く掘り下げていくことを主目的としております。

さて、皆さん、高校の理科の選択で何を選びましたか? 理系の人なら化学、物理(希に生物)、文系の人は選択すらしないか、するなら生物と決まってますよね。すっかり忘れ去られている地学は、学校によっては最初から取れなかったりしますが、ふたを開けると実に面白い科目です。その面白さ、素晴らしさをこれからの紙面で解説させていただきます。どうか最後までお聞きください。

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私と地学

エロ写真に導かれ

あれは数年前の11月初旬の事。北国では雪が降り始め、我が故郷でも木枯らしが吹き始めた頃でした。11月ともなれば、2ヵ月後にセンター試験を控え、残るは模試各社のセンタープレテストのみ。各科目ともそれなりの点を取っておかなければいけない時期です。

話は少しさかのぼります。2年生の頃、カスみたいな生物の先生に当たってしまい、本来ならば文系の人間がやるべき生物が大の苦手になってしまったのです。というわけで、3年次の理科選択では仕方なく化学を選びました(1年生の時には化学しか受けられなかった為)。嫌々ながら選んだ為、当然やる気もありません。高校の定期テストで初めて1点を取ってしまいましたよ。100点満点で。でも、学校のテスト範囲は有機化学だったので、まだこの頃は、センター模試でも今までの記憶を駆使してそれなりの点数が取れていたわけです。(まだ有機は範囲に入らないから)

しかし、時が立つにつれ、どんどん成績が落ちていきます。記憶も薄れ、やる気も無いわけだから当然といえば当然の結果なんですがね。そういった、まさしくゲレンデを直滑降で下っているような状態の中で、11月のセンター模試を迎えたわけです。

教室に残って自己採点をする自分。それを興味深そうに見つめる級友。彼らには「今回50点なかったら、先生(担任。体育教師。怖い。)の机の中にエロ写真を入れてくる」と公約してあります。テストは、個人的にはまぁまぁの出来だと思っていました。しかし、結果は……31点でした。国公立志望の人間がこれではマズイです。帰りに進路指導室に寄って担任に相談したら(もちろん、写真を入れるついでに)「あと2ヶ月あれば何とかなるやろ。新しい科目やるにしても、今までどおり続けるにしても。どっちにしろ、チャンスは今しかないで」と、実に分かり易くアドバイスしてもらいました。

ちなみに、エロ写真は結局入れる機会を逸したため、持って帰りました。友達には「入れてきた。案外先生も嬉しかったりして」みたいなことを言って出し抜きました。まだ友達にはばれていません。もう彼らとは会う事も無いでしょうけど

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運命の邂逅

先生のアドバイスを胸に秘め、学校のそばの小さめの本屋を物色することにしました。しかし、参考書コーナーを見ても、地学の本は殆どありません。しかも、チャートだの何だのといった理系向きのモノしかないと来ています。本屋にすら軽視されているこの時点で、私は地学を選ぶ事の多難さをひしひしと感じましたが、ここで後に退く訳には行きません。我が家は浪人する事を許してくれず、国公立以外への進学も許してくれなかったからです。そんな状態で理科を放置しておく自分の馬鹿さ加減に嫌気が差しつつ、街で一番大きな本屋さんに向かいました。

そこは、さすがに街(人口10万人。100年位前から変わっていないらしい)で一番大きな本屋さんだけありました。センター試験向けの地学本が結構並んでいます。その中でも、教科書すら持っていない私でもできるようなモノを探す必要があります。条件としては

  1. 暗記すべき点が分かり易く書いてある
  2. 演習問題がある
  3. マーク式である

ってところでしょうか。条件に当てはまる物を必死になって探し、店で30分くらい悩んで悩んで選んだのが「マーク式基礎問題集・地学」(河合出版)でした。これと出会ってなかったら、私の人生は大きく変わっていたでしょう。下手したら予備校で麻雀三昧の日々を送って大きく堕落するか、スーパーで棚卸しを必死になって行うブルーカラー労働者のいずれかになっていたでしょうからね。

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迫害

さて、私は早速その日の夜から必死になって勉強を始めました。もう背水の陣を敷いてしまったからには、突き進むしかないからです。そんな状況である為、私は授業中もムダに出来ませんでした。

次の日、化学の時間。いつもなら化学ノートを持っていくところですが、今回からは違います。昨日買った地学問題集を堂々と持っていきました。化学の先生は、多少の内職を許してくれるからです。ま、受験生にしてみれば関係ない科目の授業を聞くよりも、関係ある科目を勉強したほうがいいに決まってますから、これが許されるのも当然といえば当然でしょう。しかし、先生が地学をやる事を許してくれても、回りの人たちは許してくれませんでした。

文系で化学を選ぶ人は非常に少ないわけです。常々周りの文系人間から生物の楽さを吹聴され、みんな気が立っています。化学自体の難しさも手伝ってか、櫛の歯を引くようにボロボロと化学をやる人が少なくなっていきます。そんな中、よりによって他の理科に乗り換えるような非国民が現れるわけですから、罵られるのも仕方がありません。最初の一週間は「逃げた卑怯者」だの「人間のクズ」だのと、散々嫌味を言われました。

また、地学を始めて間もない頃の校内実力テストでは、さらに悲惨な仕打ちを受けました。理科・社会では科目ごとの答案印刷枚数を把握する為、個人ごとに科目選択の調査票(マークシート)を書く必要があったのですが、理科のところに「地学」という欄があったため、嬉々としてマークし、そのまま先生に提出しました。これでようやく俺の土俵で勝負できる、と思いながら。

しかし、翌日担任から「やきとり。地学は勘弁してくれ、と進路指導部の先生が言っていたよ」と告げられました。ファーッキン! なら最初から欄なんか作るんじゃねえよ! 持ち上げて落とすほうがショックが大きい事を知っていてこの仕打ちか?! いくら俺が異端者とはいえあんまりだぜ!

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本番……そしてそれから

私は、迫害に耐えつつも順調に勉強を進めていきました。センタープレテストこそ50点台だったものの、その後にやるセンター過去問では、軒並み好調でした。そして、好調のまま迎えた本番では9割近い出来でした。他の奴らが理科一科目目を受けている最中、待ち合わせ場所の体育館で震えながらストーブの周りで地学を一人で勉強したのも、今となってはいい思い出です。

そして、現在は地学模試の採点アルバイトが生業となっています。他の科目の採点よりも枚数が少ない分、それなりにオイシイです。

ホント、地学をやったおかげで「成せば成る」という言葉を身をもって学びました。就職活動に向けてこの言葉を悪用しないよう、せいぜい頑張ります。

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地学のいい所

まず、他の理科と比べて内容が広い所でしょうか。地学には地質学、地理学、鉱物学、海洋学、果ては宇宙物理学などといった、幅広い分野が含まれています。そのため、広く浅く学ぶ事になり、各事象についての細かな知識が要求される事は殆どありません。理科がセンター試験だけでいい人にはうってつけです。しかし、決して内容が薄っぺらいわけではなく、各分野はすでに専門分野として確立されている為、きちんと学ぼうとすればどこまでも深く学ぶ事が出来ます。いろいろな分野を見て自分の専門を決めたい、という理系の方にもうってつけです。地球惑星科学科のある大学なら、地学受験で入学できますし。

また、生活に密着しているという点も見逃せません。現代社会同様、これを学ぶ事によって実生活の様々な場面で人に自慢できます。

カップル男:(夜空を見上げながら)「しし座流星群しし座って何なのか知っているかい?」
カップル女:「え? ……12星座占いのしし座の時期に降ってくるから?」
カップル男:「うーん、少し違うね。地球から見てしし座の方角から星が降ってくるからしし座流星群って呼ばれるのさ」
カップル女:「へぇー、そうなんだ。○○さんって物知りなのね」
カップル男:「でも、君の事はまだまだ知らないから、もっとよく教えてほしいな……」
カップル女:「……ぽっ☆」

書いていて腹立たしくなってきましたが、この他にも春一番の吹く原理とか、冬型気圧配置になるとどうして寒くなるかとか、他人に対してアドバンテージが取れるようなネタが地学にはいっぱいあります。生物の、A型とB型の親からO型の子どもが生まれるのはどうしてかといった、結構多くの人が知ってそうなネタとは違って知っている人が殆どいないので、大手を振って自慢できます。こういった話題を使ってコンパで人気者になれば視力も良くなり、彼女も出来ます

もう一つ。生活に密着しているという事は、学ぶ時に親近感が持てるという事です。無機化学みたいにひたすら物質の性質を覚えるよりも、数段学び易いはずです。

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あとがき

地学は、高校で学べる理科の中で、唯一ノーベル賞の対象になっていません。経済学という、結果論を話し合うだけで将来の予測にはなんら効果のない分野が受賞対象となっているにもかかわらず、です(まぁ、これにはノーベルの遺族が異論を唱えているらしいけど)。来年の経済を予測するよりも、大地震や来期の気候を予測する方がはるかに有益ではないでしょうか。

本稿の依頼を受けたのは、このように不遇な地学を何とかしたいと常々思っていた所でした。渡りに船とばかりに大急ぎで書きましたが、いかがでしたでしょうか。楽しんでいただけましたか? 本来なら、よく効く地学勉強法とかを書きたかったのですが、対象年齢の違いにより泣く泣くカットしました。というか、受験生の皆さんがネットに転がる創作物を読むという行為自体すでに間違っています。大学に受かるまでインターネットは止めておきましょう。マジで。

次回の「マイノリティーの叛乱」では、かつて雑誌編集部に在籍していた頃に書いて好評を博した「三重県」について扱いたいと思っております。編集部時代には紙面の都合で書けなかった部分も大幅に加筆する予定です。乞うご期待ください。

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